新型コロナウイルス禍を生き抜くための会社経営 (5)中小企業における株主総会対応について
新型コロナウイルス禍を生き抜くための会社経営 (5)中小企業における株主総会対応について

 

センチュリー法律事務所

弁護士 野田 紘平

 

 今回は、新型コロナウイルス流行下における株主総会対応についてQ&A形式でご案内します。

 なお、ここでは、基本的に外部株主が数名~数十名である非上場の中小企業(取締役会設置で、株式に譲渡制限があり、株式の譲渡が稀な会社)を想定しています。条件が異なっている場合や、条件が同じであっても具体的な事情によっては、回答が異なることがありますので、十分にご注意ください。

 

1.開催の延期や開催方法について

Q1 当社には、数名~数十名の外部株主がおり、毎年6月に定時株主総会を行っています。新型コロナウイルスの関係で、定時株主総会を延期することも考えているのですが、延期しても問題ないのでしょうか。

A 問題ないと考えられます。ただし、まずは、Q2記載の省略手続が取れないかを検討しましょう。

 会社法には、定時株主総会を毎事業年度の終了後、一定の時期に開催することが定められているのみで、具体的に何月に開催しなければならないという規定はありません。

 また、会社によっては、定款で定時株主総会を6月に開催するなどの規定が設けられていることがありますが、こうした規定に関し、法務省は、「新型コロナウイルス感染症に関連し,定款で定めた時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合には,その状況が解消された後合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りるものと考えられます」との見解を表明しています(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00021.html)。(株主総会の延期をすると、基準日の問題や配当の問題が指摘されることがあります。しかし、株式に譲渡制限がついていて、株式の譲渡が稀な会社では、問題になることは少ないと考えられます。)

 したがって、会社法上、定時株主総会の延期は問題ないと考えられます。ただし、延期を決める前に、Q2のとおり、実際に開催することなく決議や報告があったものとみなす省略手続がとれないかを検討すべきです。

 

Q2 (Q1の続き)Q1の省略手続とは、どのような手続でしょうか。

A 取締役が株主全員に対し報告事項及び決議事項を通知・提案し、これに対して、株主全員が同意書を会社に提出すれば、当該報告及び決議があったものとみなされる手続です(会社法319条、320条)。書面の授受だけで済む手続であるため、実際にどこかに集まって株主総会を開催する必要はありません。

 ただし、株主全員から同意書を取得する必要があるため、同意が見込めない株主が1人でもいる場合や、株主の人数が多い会社においては、この手続を採用するのは難しいでしょう。

 

2.招集通知

Q3 (Q2の続き)当社では、省略手続をとるのは難しそうです。延期をしたとしても新型コロナウイルスの終息が見込めないため、予定どおりに開催したいと思います。招集通知の作成に関して、注意すべき点はありますか。

A 招集通知では、なるべく来場を控え、書面投票制度や委任状を利用した方法で議決権を行使するよう要請しましょう。また、当日の議事を短縮する旨や取りうる感染防止措置、緊急時の連絡方法(Q4参照)を事前に案内しておくことが望ましいです。

(1) 株主への要請・書面投票制度などの呼びかけについて

 招集通知は、株主へ株主総会への参加を呼びかけるものですが、感染防止のため、来場を控えるよう呼びかけることは、株主の健康に配慮した措置として可能と考えられています(経済産業省・法務省「株主総会運営に係るQ&A」(令和2年4月2日、同月28日更新)https://www.meti.go.jp/covid-19/kabunushi_sokai_qa.html)。

 この来場自粛の呼びかけをより実効的なものとするため、株主に対しては、来場せずとも議決権を行使できる旨の案内をすべきです。その方法として、書面投票制度を使う方法、電子投票制度を使う方法、委任状を使う方法があります。書面投票制度や電子投票制度を既に採用している会社であれば、同制度を使う方法が、同制度を採用していない会社であれば、それまでの運用と親和性が高いため、委任状を使う方法が推奨されます。

(2)案内について

 当日の議事は例年よりも短縮して行うことや、株主に対して感染防止のための協力を求めることがあることを、事前に告知しておくことが望ましいです。

 また、新型コロナウイルスの感染状況の予測が困難であるため、開催の中止、会場や開催時刻の変更などが必要となる可能性があります。そうした場合に備え、株主への告知を書面のほかにウェブサイトなどでも行う予定であれば、当該サイトのURLなどを予め告知しておくことが、円滑な運営に資すると考えられます。

 

3.総会前、総会当日の対応

Q4 株主総会前に、どのような準備をしておくべきですか。

A 以下のような準備が必要と考えられます。

  • 社内での感染防止策を徹底し、開催日までの14日間は特に注意を払う
     新型コロナウイルスの感染者が出た場合、濃厚接触者も最低14日間は隔離が必要となります。役員やその運営スタッフが感染者又は濃厚接触者となると、株主総会の準備はもちろん、株主総会の開催そのものに大きな影響を及ぼします。そのため、感染防止策を徹底し、株主総会までの14日間は、特に注意を払う必要があります。例えば、役員や運営スタッフの一部を完全在宅勤務とするなどの対応を取ることが望ましいです。
  • 議長予定者が新型コロナウイルスに感染してしまった場合をシミュレーションしておく
     定款で「議長は代表取締役とし、代表取締役に事故がある場合は取締役会の定めた順による」などと指定されている場合が多いです。議長予定者が感染してしまった場合、誰が議長となるかを事前に確認しておくべきです。
  • 役員や運営スタッフが新型コロナウイルスに感染してしまった場合や濃厚接触者となってしまった場合をシミュレーションしておく
     役員が新型コロナウイルスに感染した場合や濃厚接触者となってしまった場合には、法律上、テレビ会議や電話会議システムにより出席することは可能ですが、その必要性や当該役員の健康状態を踏まえ慎重に判断する必要があると考えられます。多くの場合において、欠席することになると考えられます。運営スタッフは、特定の業務を一人に集中させることなく、各自の担当業務について十分に共有しておき、なるべく当日の業務を単純化しておくなど急な交代にも対応できる準備が必要と考えられます。
  • 予定していた会場が使えない場合をシミュレーションしておく
     会場から感染者が出て消毒が必要になる、知事からの要請により医療施設として提供することになったなどの理由で会場が使えなくなってしまうという事態が想定しえます。会場が変更になった際の、株主への案内方法や代替会場について検討しておく必要があります。Q7もご参考にしてください。
  • 消毒液や予備のマスクを用意する
  • 当日、消毒やマスク着用などの感染防止策に協力してくれない株主への対応を事前に決めておく
     経済産業省・法務省「株主総会運営に係るQ&A」によれば、発熱や咳など症状を有する株主に対し、入場を制限することや退場を命じることが可能とされています。例えば、会場で、激しい咳をしている株主に、出席の自粛を丁寧にお願いし、その場で委任状に記入することで議決権を行使できることを案内するなどの処置をとっても、協力が得られない場合には、入場制限や退場という措置も可能と考えられます。
  •  株主総会の予定変更時の連絡手段を検討・整備する

 

Q5 株主総会当日の運営に関して、注意すべき点はありますか。

A  感染防止を徹底するため、以下のような対応が考えられます。

  • 会場入室時に、消毒やマスク着用をお願いする
  • 役員やスタッフを含め、マスクを着用する
  • 体調不良が疑われる株主に対しては、検温などにより体調を確認した上で、出席の自粛をお願いする
  • 座席はソーシャルディスタンスを保って配置する
  • 会場の換気を行う
  • (マイクを使う場合)スタンド式のマイクとする
  • 議事は例年よりも短縮して行う

 

4.その他

Q6 インターネットを使って株主総会ができるということを聞きました。新型コロナウイルス対策として、当社でも採用すべきでしょうか。

A 慎重に判断すべきと考えます。

 インターネットを使った株主総会というのは、「バーチャル株主総会」と呼ばれているもののことだと思われます。この「バーチャル株主総会」については、最近、経済産業省が実施ガイドを公表し、新型コロナウイルス対策にもなるのではないかと注目を浴びています(https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001-2.pdf)。

 しかし、ここで言われている「バーチャル株主総会」というのは、どこか特定の場所で実際に開催されている株主総会に、自宅などの遠隔地にいる株主がインターネットを使って参加や出席ができるというものです。つまり、来場希望の株主への対面での対応を回避することができないという点に留意する必要があります。

 また、事前のインターネット環境の整備や株主への案内、当日の対応を考慮すると、運営スタッフの増員などといった会社側の負担増加が懸念されます。運営スタッフの増員は、感染拡大への対策として本末転倒のように思えます。また、増員しないとしても、運営スタッフは、新型コロナウイルス対策を踏まえた総会の運営(開催)という例年と大きく異なる対応が要求されています。こうした負担に加え、更に、「バーチャル株主総会」対応という負担を課すに値するのかは、慎重な判断が必要と考えられます。

 

Q7 会社内で役員を含むクラスターが発生した場合や会場が消毒作業で封鎖された場合に備えて、株主総会の開催会場を変更する手続、開始時刻を後ろ倒しにする手続、開催を中止する手続について教えてください。

A 

(1)開催時刻の後ろ倒しや会場の変更の手続について

 原則として、招集手続に準じて、取締役会決議と書面による株主への通知が必要と考えられます。

 しかし、直前に変更が必要となった場合には、こうした手続をとっている余裕がないことが予想されます。会場の変更については、当日に予定されていた会場に案内係を置き、変更後の会場に誘導するなど(株主の出席確保のため)の措置をとる、開催時刻の後ろ倒しについては、大幅な後ろ倒しでなければ、当日株主に通知する、大幅な後ろ倒しであれば、一旦株主総会を開会し、時刻を変更する旨の決議をとるという対応が考えられます。

(2)開催の中止の手続について

 やむを得ない事情により開催を中止するには、上記1同様に、原則、取締役会決議と書面による株主への通知が必要です。

 しかし、開催日直前に中止の必要が生じた場合、書面での株主への通知が間に合わないことから、当日に来場した株主に直接説明する、その他の方法で連絡するなどの対応が想定されます。この点に関し、書面での株主への通知は、開催日よりも前に株主に到達しなければ撤回は無効となる(岩原紳作『会社法コンメンタール7』(商事法務、2013)88頁)との指摘があるため、直前の中止はなるべく避けるべき(※)と言えますが、会社内でクラスターが発生してし、役員全員が感染又は濃厚接触者となってしまった場合などの緊急時においては、やむを得ない対応と考えられます。

 

※ 同様の方法として、出席可能な役員がいれば、株主総会を開催し議事に入らず延期の決議をする(延期後の日時の決定は議長に一任する)という方法があります(会社法317条)。なお、延期できる期間について、1~2週間以内との指摘がありますが(岩原紳作『会社法コンメンタール7』(商事法務、2013)288、289頁)、感染者の回復状況等を鑑み合理的期間であれば許容されるものと考えられます(企業決算・監査の遅延を念頭に置いたものではありますが、法務省なども同様の見解であり、3か月を超えないことを目安にしているようです(金融庁・法務省・経済産業省「継続会(会社法317条)について」(令和2年4月28年)https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/keizokukai.pdf)。

 

以上

 

 

連載:「新型コロナウイルス禍を生き抜くための会社経営」

(1)新型コロナウイルス関連支援融資か、従前からの通常融資か

(2)人員削減を含む人件費削減について

(3)資金繰り対策のポイント

(4)助成金、持続化給付金

(5)中小企業における株主総会対応について(本稿)

 

 

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