センチュリー法律事務所
代表弁護士 住田昌弘
今回は、資金繰り対策のポイントについてお話します。なお、融資、出資、助成金を伴う資金繰り対策は、別途述べることといたしますので、今回は、それ以外の資金繰り対策のポイントを解説します。
但し、資金繰りは、各企業の個別性が極めて強い事項です。本稿では考慮すべき項目を整理しますので、各企業の経営者様、財務・経理担当者様にてご参考にされてください。
もっと詳しく知りたい方、自社の資金繰り対策を見てほしという方は、ご遠慮なくご相談ください。
1.総論
資金繰り改善のポイントは、「金額」と「時間」です。
金額が重要なのはもちろんですが、入金・出金の時期も非常に重要です。月末の現預金残高がプラスであっても、月中(例えば15日の給料日)に現預金残高がマイナスになれば、当然ですがその時点で資金ショートしてしまいます。また、例えば、ノンコア事業の売却を行う場合、多額のキャッシュインが見込めるかもしれませんが、入金までにはかなり時間がかかるでしょう。この入金のタイミングまでに資金ショートしてしまえば、元も子もありません。
「金額」と「時間」に着目して、資金繰り対策を考えると、大きく以下の4パターンに整理することができます。
(1)キャッシュインを増やす
(2)キャッシュインの時期を早める
(3)キャッシュアウトを減らす
(4)キャッシュアウトの時期を遅くする
2.各論
(1)キャッシュインを増やす
① 遊休資産の売却
遊休不動産、売却可能動産、上場株式、投資信託、特許、商標などの売却。不動産の売却などは時間がかかります。
② ノンコア事業の売却
売却可能な事業があれば、これも資金繰りの検討対象です。但し、売却しお金を手にするまでには、6ヶ月程度の時間は覚悟すべきです。
③ 子会社や関連会社の資産処分等
子会社や関連会社の資産処分や余裕資金を集めて、資金繰り改善の一助としましょう。
④ 保険の解約返戻金
短時間で現金が手に入ります。
(2)キャッシュインの時期を早める
⑤ 回収サイトの前倒し
取引先との交渉が課題になります。下請企業では、元請企業から当月払いにしてもらったり、前受金を受領したりといった交渉をしてみてください。
(3)キャッシュアウトを減らす
⑥ 赤字事業、赤字店舗の閉鎖
一定の売上があるときは、資金繰り上プラスかマイナスかはしっかり試算して検討する必要があります。赤字店舗の閉鎖をすると、当該店舗が所有店舗であれば、遊休不動産として売却が可能になります。
⑦ 赤字製品の製造中止
上記⑥と同様に、資金繰り上プラスかマイナスかはしっかり試算して検討する必要があります。この問題は、⑧とも関連します。
⑧ 赤字取引の停止
赤字取引の改善は、取引先との価格交渉の問題です。案外、大口取引先との取引で赤字取引である場合が多く、大口取引先との取引条件の変更は大きな資金繰り改善効果があります。過去の事例ですが、上位10社の取引先中7社が赤字取引であった例もあります。個別取引先別の黒字、赤字を正しく把握しましょう。いずれにしても、直ちに交渉を始め少しでも販売価格を上げてゆくべきでしょう。
⑨ 在庫の削減
在庫削減は、資金繰り対策としては時間のかかる対応ですが、大きな資金を生んでくれます。在庫には、原料在庫、部品在庫、商品在庫、仕掛品在庫などがありますが、ジャストオンタイムでの原材料、部品の供給により、原料在庫、部品在庫は減少し、その代金分の資金が残ります。手持ち商品在庫の最小化、商品の受発注時間の短縮、製品の部品点数の削減、製造工程の工程削減などにより、商品在庫や仕掛品在庫の減少が可能となりその分現金が残ります。
⑩ 経費の削減
(ア)賃料削減
新型コロナウイルスでは、外食企業、小売企業などで賃料の減額交渉を一斉に開始したことが報道され、一部の大手賃貸業者はこれに応じる姿勢を見せていることが報道される一方、零細な賃貸業者では賃料の支払い延期や減額交渉も難しいということが言われております。いずれにしても、交渉を開始し資金繰りに繋げる努力が必要です。
また、赤字店舗の閉鎖、オフィススペースや倉庫などの過剰スペースの削減、テレワークによる事務スペースの削減も検討し、賃料の削減を進めましょう。
(イ)交際費・会議費
緊急事態下では、大幅削減が可能でしょう。ゼロに近づけるチャンスです。
(ウ)交通費
テレワークの積極活用で、交通費の大幅な削減が可能となるでしょう。
(エ)人件費の削減
人件費の削減については、業務の縮小、停止に伴い必要のなくなった派遣社員、パート社員の削減を行うことについては、あまり迷われる経営者の方は、少ないと思います。正社員の削減をどのタイミングで考え始めるべきかですが、あらゆる経費の削減を行い、運転資本を削減(在庫の削減、支払いサイトの調整による資金捻出)し、役員報酬と管理職給与の削減をしてもなお、採算分岐点売上を確保できないときは、人員整理を含めた人員削減のプランを検討すべきです。人員削減の方法、開始時期は、各企業の資金繰りの余裕度次第です。
(オ)その他の経費
広告費、光熱費、輸送費、外注費などあらゆる経費項目の見直しをしましょう。
また、経費削減を含むあらゆる収益改善策を、社員から募ってみてはいかがでしょうか。
(4)キャッシュアウトの時期を遅くする
⑪ 税金、社会保険料の支払い条件の変更
国の政策にされていますので、交渉は比較的容易でしょう。
⑫ 支払いサイトの延長
これも取引先との交渉が課題になります。資金繰りが悪化した場合、原材料販売大手などに対し、支払いサイトの延長をお願いすべきでしょう。
⑬ 手形・小切手の支払期日のジャンプ
倒産防止のため、手形・小切手の支払資金に不安が生じたときは、直ちにジャンプの交渉を始めていください。
なお、2020年4月16日付で、新型コロナウイルス感染症の影響によって、全銀協より、以下の通知がなされています。
(1)支払期日を過ぎた手形・小切手であっても取立や決済を行えるようにすること
(2)資金不足により不渡となった手形・小切手について不渡報告への掲載・取引停止処分を猶予すること
⑭ 金融機関への返済条件の変更
金融機関に対しては、元金の支払い停止、利息の支払い停止要請を検討しましょう。
以上
連載:「新型コロナウイルス禍を生き抜くための会社経営」
(1)新型コロナウイルス関連支援融資か、従前からの通常融資か
(3)資金繰り対策のポイント(本稿)
「今、新型コロナウイルス問題で経営判断に迷っている経営者の皆様へ」
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