新型コロナウイルス禍を生き抜くための会社経営 (2)人件費削減
新型コロナウイルス禍を生き抜くための会社経営(2)人員削減を含む人件費削減について

 

センチュリー法律事務所

弁護士 小澤 亜季子

 

 4月上旬に、ロイヤルリムジン株式会社が、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、従業員およそ600人を全員解雇するとのニュースが流れました。

 ロイヤルリムジン株式会社のように、新型コロナウイルスの影響により、売上が急減し、人員削減を含む人件費削減に取り組まざるを得ない企業もあると思います。

 今回は、そのような場合について考えてみたいと思います。

 

(1) まずは解雇・退職以外の人件費削減

 まずは、解雇・退職等の人員削減策を講じる前に、例えば、期間限定で一律の減給を行うとか、1日8時間労働のところ2時間分労働時間の削減をする(それに伴い減給する)等に向けて、従業員の同意を得るべく交渉をすることが考えられます。

 職を失わずにすむのならば、受け入れてくれる従業員もいるかもしれません。

 しかし、従業員が多ければ多いほど、交渉には時間がかかりますし、資金繰り改善に与える影響も一定範囲にとどまります。

 

(2) 整理解雇

 減給等では足りず、人員削減に踏み切らなければならない場合、解雇(整理解雇)という方法が考えられます。

 解雇とは、会社側から一方的に雇用契約を終了させることです。

 しかしながら、整理解雇をするには、以下の4要件を満たさなければならず、そのハードルは低くはありません。
 ① 人員整理の必要性
 ② 解雇回避努力
 ③ 人選の合理性
 ④ 労働組合・労働者との協議

 整理解雇をされたことに不服な従業員が、労働組合に加入したり、弁護士に委任したりして、整理解雇の有効性を争ってくる可能性もあります。

 さらにいえば、整理解雇の場合、解雇予告が必要になりますので、1か月分の給料相当額のキャッシュアウトは避けられません。

 なお、一時解雇つまり再雇用の約束をした場合、従業員が失業保険を受給できない可能性があるので注意が必要です。

 

(3) 合意退職

 そこで、従業員に対して退職勧奨を行い、合意退職してもらうという方法が考えられます。

 解雇とは異なり、あくまでも従業員との合意の上で、退職してもらうものです。

 合意退職を進める場合には、まずどの従業員に退職を求めるか人員計画を策定します。そして、合意退職する従業員に対して与えるインセンティブ(例えば、会社都合退職金を支払う等)について、資金繰りも加味しながら、検討します。その上で、退職を求める従業員との間で、話合いを行います。この際、事業継続に必要なキーマンが退職しないように注意しなければいけません。従業員側との合意がまとまった場合には、退職合意書等の書面を作成しましょう。

 合意退職のメリットとしては、合意の上での退職ですので、従業員とのトラブルを防ぐことができます。また、従業員側からすると、人員整理等に伴う退職勧奨に応じて退職した場合、特定受給資格者(いわゆる会社都合)に該当し、失業保険を3か月の給付制限期間なく受給することができます。

 デメリットとしては、当然のことながら、従業員が同意しなければ、退職させることはできません。また、従業員側との協議には一定の時間がかかります。そして、例えば、会社都合退職金を支払う等、合意退職に基づくインセンティブの付与により、一時的にキャッシュアウトが増加する可能性があります。

 

(4) 休業+休業手当

 そこで、合意退職の協議と並行して又は終了後、休業させたい従業員について、休業させた上で休業手当(労基法26条)を支払うという方法が考えられます。

 休業手当の金額は、平均賃金の60%以上とされています。給与金額の低い従業員の場合、平均賃金の60%の支給では、生活に困窮する可能性があります。従業員の給与額を考慮の上、パーセンテージを決定することが必要です。

 この休業手当については、雇用調整助成金により、支払った休業手当のうち、大企業は2/3、中小企業は4/5(1人も解雇等しなかった場合は、大企業は3/4、中小企業は9/10(上限8,330円/日/人))の支給を受けることができます。但し、雇用調整助成金は、申請から支給までに2カ月以上の時間がかかります(現在この支給までの期間を短縮する試みが行われはいます。)。また、雇用調整助成金は、支給申請日の属する年度の前年度より前のいずれかの保険年度における労働保険料の滞納がある場合には、支給されませんので注意が必要です。

 なお、不可抗力による休業の場合は、休業手当(平均賃金60%以上)を支払う義務はありませんが、今般のコロナショックが不可抗力に当たるかどうかについては、弁護士の間でも争いがあります。
 そして、法的に争いがあるという以上に、雇用は継続するものの休業手当は支払わないとなると、従業員は生活に困窮する恐れがあります。なぜならば、従業員としては、給料は0円にもかかわらず、解雇ではないので、解雇予告手当も失業保険ももらえないからです。かといって、自己都合退職すると、失業保険を受給するまでに3か月の給付制限期間が発生してしまい、その間の生活費に事欠く可能性もあります。籍は残すものの休業手当は支払わない場合、従業員は、会社に残るにせよ、自ら退職するにせよ、非常に厳しい状況に追い込まれます。

 

(5) 民事再生等法的整理

 したがって、現時点で、合意退職等の人件費削減に取り組み、さらにありとあらゆる金策を行っても、どうしても残った従業員の休業手当(60%以上)も支払えない程の資金不足に陥っている場合には、民事再生等の法的整理を検討した方がよいのではないかと考えます。

 民事再生を申し立てた場合、金融債権に加えて、取引債権もいったん棚上げにすることができます。

 民事再生の最大のメリットは、金融債権も取引債権もいったん棚上げにすることで、資金繰りに若干の余裕が生まれることです。民事再生は、通常のスケジュールで行くと、申立てから終結までに約6か月かかります。この民事再生の期間中、冬眠モードでなんとか生き延び、アフターコロナの世界に向けて再起を図るということです。

 他方、民事再生の大きなデメリットとしては、取引債権も棄損することから、取引先に迷惑をかけてしまうということがあります。

 会社によっては、民事再生の申立てに適さない業種もあります。いよいよ資金繰りがひっ迫してきた場合には、ぜひ一度、弁護士にご相談ください。一緒に再建のメニューを考えましょう。

 

連載:「新型コロナウイルス禍を生き抜くための会社経営」

(1)新型コロナウイルス関連支援融資か、従前からの通常融資か

(2)人員削減を含む人件費削減について(本稿)

(3)資金繰り対策のポイント

(4)助成金、持続化給付金

(5)中小企業における株主総会対応について

 

 

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